労務ニュース

第4号 労働契約法の改正案~有期労働契約の在り方~について2012-05-16

当事務所では、毎月異なるテーマについて勉強会を開催し、人事労務に関すること、およびそれ以外の様々なことに対する知識や理解を深めています。今回は、そのテーマとして取り扱いました労働契約法の改正案についてお伝えさせていただきます。


勉強会では、本改正案についての労働条件分科会の報告に基づき、労働政策審議会が厚生労働大臣あてに建議を行った「有期労働契約のありかたについて」および「労働契約法の一部を改正する法律案要綱」を読み解きながら、本改正の主旨、内容について学びました。


以下、法律案要綱よりポイントをお伝えします。



①有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換


有期労働契約が同一の労働者と使用者との間で5年(使用可能期間)を超えて反復更新された場合には、労働者の申し出により期間の定めのない労働契約に転換させる仕組みを導入する。


同じ使用者のもとで通算して5年を超えて労働契約を更新した場合、労働者が申し出れば、別段の定めがない限り従前と同じ条件での無期労働契約に転換するというものです。ただし、契約と契約との間に6ヶ月以上の空白期間(クーリング期間)がある場合には、前の契約期間を通算することができません。裏を返せば、契約期間満了から6ヶ月を経過する前に同じ会社で再度契約を結べば、複数の契約で5年を超えることで無期への転換ができる、ともいえます。



②「雇い止め法理」の法定化


有期労働契約が反復して更新され、実質無期と変わらないような状態の場合、または有期労働契約期間が満了した後も雇用の継続が期待されることについて合理性が認められる場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない雇い止めについて、当該契約が更新されたものとして扱う、といういわゆる雇い止め法理について、制定法化する。


有期労働契約でありながら実質無期労働契約と変わらないような状態である場合、その有期労働契約を更新しない、いわゆる雇い止めについて、客観的に合理的な理由や、社会通念上相当でない場合には認めないということが法律上で明文化されました。つまり、今までの裁判の判決をふまえると、この雇い止め理由は合理的ではないからいけないと思う、という判例法理にとどまっていたものが、今後は法律に違反しているからいけない、というはっきりとしたものになるということです。



③期間の定めを理由とする不合理な処遇の解消


有期契約労働者の労働条件について、職務の内容や配置の変更の範囲等を考慮して、期間の定めがあることを理由とする不合理と認められるものであってはならないものとする。


労働条件が有期と無期とで異なるのであれば職務内容も考慮し、逆に職務内容が同じであれば、単に有期労働契約であるからという理由で不合理な労働条件を定めてはいけない、というものです。






雇用情勢が芳しくない現在の日本にとって、有期労働契約は雇用確保の為になくてはならない雇用形態のひとつです。しかし、流動的に雇用しやすい分、有期契約労働者の地位は不安定であり、また賃金等の処遇面においても無期労働契約者、いわゆる正規労働者と比較すると概して低いというのが現状です。

今回、その不安や処遇の改善を主旨として、本改正が行われました。そのため、5年という「使用可能期間」を超えて反復継続した場合には期間の定めなしとみなすという点や、同一の職務であれば無期労働契約者と同待遇とする等、有期労働契約者の保護を意識した内容となっています。しかし、6ヵ月間の「クーリング期間」等、使用者側の逃げ道となりうるものも同時に作られているというのもまた事実です。

労働者派遣法のように、派遣労働者の保護を目的としていながら実際は保護されるべき側が振り回されるという状況になりかねないかが懸念されますが、今まで判例法理という曖昧なルールでしかなかったのを法律上明文化し、明確にルール化したことは、一歩前進したと言えるのではないでしょうか。



この労働契約法改正案は、現在開会中の通常国会に提出予定となっています。可決、成立後、どのような動きが出てくるのか。今後も注目していきたいと思います。



執筆 社会保険労務士 大塚 亜弓