労務ニュース

第3号 後期高齢者医療制度について2008-06-16

2008年4月より施行された後期高齢者医療制度について、これまでみなさんが新聞やテレビ、インターネットを通じて得た情報とは別の視点でお話したいと思います。


この制度は、高齢者に対する医療の給付と費用負担の仕組みを明確にし、かつ適正にするという目的で施行されました。従前の仕組みは、75歳になると健康保険や国民健康保険など医療制度での資格は有したままで老人保健法による医療給付を受け、財源はそれぞれが加入する制度全体が費用を拠出する形で賄われてきました。しかし、この従前の仕組みでは各医療制度における高齢者医療費の負担割合が不明確となり、高齢者医療に対する責任主体も曖昧となってしまう欠点がありました。そこで、75歳以上の方を従前の各医療制度から切り離して後期高齢者医療制度という新たな制度の被保険者とし、併せて運営主体、医療費負担もはっきりとさせることで責任主体の明確化を図ろうとしたのです。しかしここには、増大する高齢者の医療費を抑制するという狙いもある、と考えてしまうのは私一人ではないと思います。


運営は各都道府県に設けられた「後期高齢者医療広域連合」という新組織が主体となって被保険者の資格管理や医療給付事務を行い、保険料の徴収は各市町村が行います。医療給付の財源は国・都道府県・市町村からの公費で約5割、現役世代から約4割、高齢者自身が約1割を負担します。受けられる医療の内容については従前と基本的には違いはありません。


では何が問題視されているのか、私が当事務所にて実務を行うなかで気づいたことを二つご紹介致します。
①旧制度では、健康保険の被保険者本人ではなく被扶養者として実際の保険料負担がなかった人であっても、75歳以上になると被扶養者として認められず強制的に後期高齢者医療制度の被保険者となります。つまり、これまではなかった保険料負担が発生してしまったのです。
②新制度では、健康保険の被保険者本人が75歳になると、75歳未満の家族も含めて健康保険を脱退しなければならなくなりました。この場合本人は後期高齢者制度の被保険者となり、家族は国民健康保険へ加入します。ここでも家族に対し、これまでなかった保険料負担が発生します。
保険料負担については国会で議論が起こり激変緩和の為の保険料軽減という経過措置がなされました。しかし原油高、それに伴う物価の高騰に加え、高齢者の方に対する負担はさらに重いものとなっていると感じます。


私を含め、どなたも高齢になれば体力の衰えもあり、おのずと医療のお世話になる機会も増えるものと思います。だからといって医療費のかかる高齢者を別枠にすれば、社会保障制度の基本的理念である自助、世代間相互扶助(共助)、公助の均衡という美学を失い、国民の生存に対する肯定感が不安なものへと変わってしまうのではないでしょうか。
新制度では目的のひとつである医療費負担の配分の明確化は達成されました。しかし大切なのは、変化の中で各世代がどのように医療費負担を担い合い、どのような医療の提供を高齢者の方々が受けるのが適切なのか、納得のいくところはどのあたりなのかを国民が判断できるように、介護と医療との連携も含めて国がもっと有効な仕組みを生み出し、国民に対しもっと粘り強く説明し、広く分かり易く周知していくことだと思います。後期高齢者制度は不明確な部分が多く、実務に携わる私にとってもこの制度は分かりにくいと感じます。


6月6日に廃止法案が参議院本会議で可決されましたが、今後の国会に注目しつつ、引き続きこの制度の仕組みを理解していきたいと思います。

                      
                          執筆 中西人事労務研究所 大塚 亜弓