労務ニュース

第11号 最高裁判決のポイント 労働契約法第20条の解釈2018-08-22

前回速報にてお伝えしました、2つの事件の最高裁判決について
解釈のポイントをお伝えしたいと思います。

~はじめに 労働契約法第20条について~
期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止

法第20条は、有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合、その相違は、職務の内容(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいいます。以下同じ。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、有期契約労働者にとって不合理と認められるものであってはならないことを明らかにしたものです。
したがって、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件の相違があれば直ちに不合理とされるものではなく、法第20条に列挙されている要素を考慮して「期間の定めがあること」を理由とした不合理な労働条件の相違と認められる場合を禁止するものです。

<最高裁判決のポイント>
今回の2つの事件(ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件)における労働条件相違に関して、ハマキョウレックスでは契約社員と正社員とで異なる就業規則が適用されていること、長澤運輸でも、定年後再雇用の嘱託社員(有期契約)に対し別途嘱託社員規則が定められていることなどから、期間の定めの有無によって生じた相違であるとして、それぞれ法第20条の枠組みを根拠として判断がなされました。
また、不合理と認められるものについては、不合理であると評価できるものをいい、合理的ではないもの、という解釈ではないとしました。
そして、この規定は私法上の効力を有することから、有期労働契約のうち、法第20条に違反する部分は無効となりますが、それによりただちに無期契約労働者と同一の労働条件になるというものではないという点にも触れています。
さらに、労働条件の不合理性を賃金の場合は支給する趣旨などから個別に判断するという見解を明確に示しました。
例えば、ハマキョウレックス事件では、手当について以下のような個別判断がなされました。

・無事故手当…優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼獲得を目的として支給される手当と解され、安全運転や事故防止の必要性は契約社員、正社員であっても異なるものではないから、相違は不合理であると判断された。
・住宅手当… 従業員の住宅に関する費用を補助する目的で支給されるものと解され、契約社員は就業場所の変更が予定されていないのに対し、正社員は転居を伴う配置転換が予定されていることから、相違の不合理性を否定した。

長澤運輸事件では、定年後再雇用の有期契約労働者と正社員との労働条件の相違について、不合理性の判断要素のひとつである「その他の事情」についての解釈が示されました。
労働者の賃金に関する労働条件は、職務内容、変更の範囲により一義的に決まるのではなく、使用者は雇用および人事に関する経営判断の観点から様々な事情を考慮して、労働者の賃金に関する労働条件を検討することができること、また賃金に関する労働条件の在り方については、基本的に労使自治に委ねられる部分が大きいことから、「その他の事情」の内容は職務の内容等に限らず、広く考慮すべきとしました。
その上で、定年後に再雇用されたということを「その他の事情」として考慮される事情にあたると解釈しました。
長澤運輸では、正社員時と定年後再雇用後との賃金差が大幅にならないよう配慮したことや、労使交渉の結果、調整給を支給するとしたこと等も総合考慮し、大部分の不合理性を否定する結果となりました。

~おわりに 判決から~
上記をふまえると、名称にかかわらず、実態としてどういった趣旨で支払う賃金なのかということをしっかりと説明できる必要性や、そこに有期・無期間の相違が生じている場合、そこで働く社員の方達がみな納得できる相違なのかということ等が重要になってくると言えそうです。
また、定年後再雇用の方については、経営判断、労使自治といった事情をふまえた上で、相違についての不合理がないか、例えば定年後だからといって、職務内容に変更がないにもかかわらず大幅な賃下げを行っていないかといった点が重要視されそうです。

とはいえ、この判決より後に成立した働き方改革関連法案により、この解釈が影響を受ける可能性も懸念されます。
今後も引き続き、行政からの指針等を確認し、お知らせしていきたいと思います。

執筆 文責 社会保険労務士 大塚 亜弓