コラム

第5話 <住む世界が狭く感じたときには>2007-04-23

~杉山彩香さんの近況から:(答)家住期のスキルをもって林住期の精神を生きるとよい~


<四住期について>
 ヒンズー教には、人生の過ごし方として、四つの人生の季節、四住期という考え方があり、つぎのように述べられています。


 一番目は学生期といって、ひたすら学ぶ時期、二番目は家住期といって仕事と家庭に精一杯世俗的に過ごし生計を営む時期、三番目は林住期といって世俗とまったく違う価値観を持って林に住む時期。この三つを経て、四番目に最後の、遊行期が訪れるのです。「遊行期とは、執着のない心でみずから乞食となって巡礼して歩き、永遠の自己との同一化に生きようとする人生の最終時期」のことなのだというのです。


 近頃は、不老ということにとらわれ、老いることがマイナスのように思いこみがちですが、四住期を知ると「老い」というものの肯定的なとらえ方ができます。
 しかし、私は、この四つのライフステージの考え方を、人生の移ろいとして「老い」というものをより肯定的に納得する為の視点だけにしてしまうのは、もったいないと思うのです。


 それは、どういうことかというと、年齢相応の四住期が背景として必然するのではなく、四住期という視点を、高齢のかたも、若いかたも、もっと日常的に生かしていくと、よいと思うのです。たとえば一週間のなかで月~金は仕事を一所懸命して家住期、金曜の夜はスクールに通って自己啓発で学生期、土曜は生きたいように生き生き過ごして林住期、日曜はあてもなく散歩して遊行期、という具合に、四つのライフステージを一週間にミックスして過ごすのもバラエティに富み楽しいものになるのではないでしょうか?


 人はその生涯において、どうしても仕事に頑張って働く家住期を長く過ごします。しかし家住期だけを長く単調継続し、個人の生計を営むということのみを原理として依拠した場合には、経験すればするほど<住む世界が狭くなっていく>弊害が生じます。
 こんなとき、四つのライフステージをミックスして過ごせば、人生に広がりと深さが増します。仮にその人のライフステージが現在は家住期にあったとしても、学生期や林住期や遊行期の体験を並行すると、物事のとらえ方が感性に富み柔軟になります。仕事上の活動も柔軟で多彩になり、ひいては、人生に幅と深さが増します。


<いつでもどこでも、家住期のスキルをもって林住期の精神をも生きている>
 このような生き方を、している方がいらっしゃいます。杉山彩香さんです。2007/04/23に、キャリア相談についてのご報告をお聴きしたとき、私はそう確信しました。すでに彼女は2003年頃からキャリアデザインという意識をもって行動していらっしゃいました。
 当時から、彼女は、職務を超え、評価されることを超えて、他者や組織の利益のための自発的な行動をなさっていました。現在は、管理職として、経営管理、文化広報活動、人事、特命業務、兼務秘書、を精力的に行っていらっしゃいます。仕事以外の友人も多いようです。今回のキャリア中間報告によると、この2年間は文化広報活動の枠組みを広げ、休日や休暇には国境を越え、アジアと日本を音楽でつなぐ活動(具体的にはアジアで活動するバンドGypsyqueenのマネジメントと外務省、当地大使館、領事館などとの調整、現地アーティストとのやりとり、人々への広報活動)をしています。
 彼女の年齢的ライフステージは若く、家住期にありますが、アジアと日本を音楽でつなぐ活動は、仕事で培った能力は使っていますが家住期としての活動ではなく、世俗とまったく違う価値観を持って行われる林住期の時間の使い方とあり方になっているのです。もっといえば、要するに、彼女は、オン・オフや社内・社外という枠にとらわれず、いつでもどこでも、<家住期のスキルをもって林住期の精神をも生きている>のです。
 そのうえ、家住期と林住期のそれぞれの経験が相乗的に彼女を触発し、視野を広げ、人々の信頼に比例して行動範囲が自ずと広がっています。新しい場で柔軟に対応し新しい経験を積みながら、彼女の本質は保たれ、彼女はより彼女になっていく。きっと幼少のころから理屈抜きで四つのライフステージ視点を自然に身に付けていたとしか思えません。


<住む世界が狭く感じたときには>
 もしもあなたが、どうも行き詰まり感があるなとか、ちかごろ経験を積めば積むほど住む世界が狭くなってきたな、と感じることがあったら、是非とも杉山彩香さんのように、家住期のスキルをもって林住期の精神を生きる体験を意図的にしてみてください。いつの間にか、柔軟に、新しいところでいろいろなかたと知り合いになり、意外な自分に出会う体験や自己信頼感に繋がる体験をすることでしょう。そして、あなたらしさの本質は変わることなく磨かれ輝くにちがいありません。




                                            <以 上>




参考:杉山彩香さんが勤務する、川上産業株式会社(代表取締役 川上 肇さん)では、「キャリア支援主義」として、働く<人>がご自分のキャリアを自律的/計画的に自己開発することの支援を、会社として行っています。ご自分がどんな仕事で、現在から将来にわたり、他者にGIVEし続けたいか、主観的自分像と客観的自分像を認識するお手伝いを、会社として行うものです。 その一環として、キャリア自己開発講座、キャリア相談、等を実施しています。


参考:河合隼雄著「老いるとはどういうことか」